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深夜2時、渋谷センター街の裏通り。
道ばたにはゴミが散らかり、表通りの派手なネオンが路地にこぼれている。
決して素敵とは言えない景色だけど……私にはバラ色の素敵な裏通りに見えていた。
何故なら、私はそこで大切な人を待っているのだから。
「ね、キミ、ちょっといいかな」
さっそく、頭の悪そうな男が私に声をかけてきた。
顔を上げると、そこに居たのは数人のガラの悪い男たち。
プライドのなさといい、だらしなさといい……あの人とは大違いだ。
「………………」
私は無視を決め込む。だけど、向こうは全く臆さずに、私につきまとってくる。
「……ちょっと無視すんなよ。俺、困ってるんだけどさ。お金、貸してくれない?」
「少しくらい持ってるんだろ? 」
「あっちに行って。放っといてよ」
「は?」
「何この女。こわがってんの……!?」
あっという間に、ガラの悪い男たちは私を取り囲む。私をいいカモだとでも思っているのかしら。
「やめなさいよ。私を怒らせると、後悔するわよ」
「なんだ、コイツ」
私を囲んだ男たちが今にも、私の襟首をつかもうとした、その時。
「大丈夫かい、マリア……?」
「ファーザー……!!」
その優しく品のいい声に、思わず笑みがこぼれる。
振り向くとそこに、確かに私が待っていた人がいた。
「こらこら、マリア。あんな小者の悪魔を相手にしてはいけないよ」
「でも、この辺りであんな真似されたんじゃ、こっちが迷惑なのよね」
「いちいち構わず、放っておけ。私たちには、もっと大切な仕事がある」
「分かってます!
でも、この辺りで私をナメるってことは、ファーザーをナメてるってことでしょ。
こういうことは、最初が肝心って言うじゃない?」
「まあ、好きにしなさい」
ファーザーは笑った。不敵な、だけど優しい笑み。
ファーザーが現れると、もう誰も、私にちょっかいを出さなくなる。
この人の持つ雰囲気の所為か、それとも……
私たちを、悪魔が守っていることが伝わるからなのか。
「ま、今笑ったわね?」
「ああ。お前にはハラハラさせられるな」
「もう、子供扱いして。でも私なら、ファーザーの役にたってみせるわ。
たいだい、堅物のヴェガよりも、私のほうが、よっぽど融通がきくはずよ」
「しかし。いちいち、寄ってくる虫の相手をしてはいけないよ。お前の品格が落ちる」
「ふふ、はあい」
私はふざけてファーザーの腕を取る。
普段なら、私に手をあげようとしたヤツからは財布を奪うか、
悪魔の力で懲らしめてやるところだけど……今日の私は機嫌がいい。
「でも、ずいぶん遅かったのね! 今日は私、一時間も待ったんだから」
「そうか。何度かメールを入れたはずだが……すまなかったな」
「いいの。それより、ファーザーにお話したいことがたくさんあるのよ」
「ふふ、まあそう引っ張るな。」
私はファーザーの腕を引いて、くるくると回した。
優しいファーザーの身体はすっかり冷えていて、まるで息をしていないみたい……
「どうした、マリア?」
「ううん、なんでもないわ。今日はどこに行っていたの? すごく身体が冷たいわ」
「ああ、ちょっとした用事でね。だけど、今は暖かいよ。お前もいるしね」
「私、貴方の役にたってみせるわ。きっと、誰よりも」
「ああ、そうだな……頼りにしているよ? マリア」
「ふふ……任せておいて、ファーザー」
もっと気を引きたくて、もっと近くにいたくて。
私は彼の大きな歩幅にあわせて、勢いよく歩き出した。
今の私にはファーザーに喜んでもらうことが……
彼に一番近い場所を独り占めすることが、私の全てなのだから。 |
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