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「ねえ、マリア。僕の部屋に遊びに来なよぉ」
「待って。今から……?」
「もちろん、今すぐ! 人形の着せ替えに飽きたんだんよねぇ」
夜の12時に、イルミナのお誘い。
こんな時間だけど、地下で暮らす私たちにとっては、地上のお昼と同じだった。
「待ってて、今行くから」
そうは答えたものの、私は少し緊張してしまう。
イルミナが部屋に招いてくれたのは嬉しい。だけど、イルミナは少し変わった子だ。
女の子の格好をしているけど実は男の子だし、
ハサミを持ちこんで私の部屋のぬいぐるみを切り裂いたこともある。
それも事情があってしたことだけど、イルミナが不思議な子であることにかわりはなかった。
「でもイルミナ。私にはお人形遊びはできないわよ? 」
「大丈夫。これから人形遊びじゃなくて、マリアを変身させてあげるよぉ」
「私を着せ替えるってこと?」
「そう!! 髪や顔もいじるけどね。」
そう言って、イルミナはポケットから出したハサミをいじりだした。
「え!? ちょっと待って!! それって、何に使うの……」
「ああ、大丈夫だよぉ。これは糸とか髪とか切るだけでぇ。お肌には傷をつけないよぉ」
「う……それでも、気付いたら髪がバッサリ、なんてことになったら困るんだけど……」
「うん、全然平気ィ! 僕を信じてぇ」
「いや、イルミナは平気でしょうけど、第一アンタ男じゃない。着せ替えって……」
「ひどい!男は着せ替えで遊んじゃダメなのぉ?」
「…………」
私はふう、とため息をついた。イルミナは一度言い出したら聞かない。
ここは、イルミナに任せるしかないみたい。
「さ、どうぞぉ。散らかってるけど」
「全然。お邪魔します!」
私がイルミナ部屋に入ると、そこはまるで女の子の部屋みたいだった。
何もなくて殺風景な、私の部屋とは大違い。
「ふふ……じゃ、早速。最初はこれ、着てみてぇ」
イルミナは、ハンガーにかけたままの赤と白のストライプが走るワンピースを、
鏡の前で私にあわせた。
「ほら、これで誰もアナタだって気付かないよぉ。ほら、鏡を見て。どう?」
「うーん、これだと派手すぎないかしら?」
私が首をひねると、イルミナはそれを引っ込めた。
「そお? じゃ、これは……? 淑女風の黒のカクテルドレス風ワンピースぅ」
「長いし……それに、……こんなに背中を出しちゃうの?
腰まで出るなんてセクシーすぎるわ」
「ダメなの? 綺麗なのに。
それにこういうのは、普段は肌を出さない子がたまに出すからいいんだよぉ?
みんなドキッとするって!」
「私、別に誰かドキッとさせたいわけじゃ……」
私が再び首をひねると、イルミナは途端に目を見開いた。
「その発想が良くないんだって!! 恋する女の子はいつでも、特別な存在でなくちゃ!」
「でも別に、今は誰にも恋してないし……」
「そうなのぉ? 女の子ならいつも恋してるくらいでいいと思うけどねぇ……ま、いいか。
じゃ、今は僕に恋しているという設定で」
「え! どうしてそうなるの?」
「僕じゃ……無理なのぉ?」
イルミナは残念そうにしょんぼりと首を傾けた。
「そんなことないわ……うん、大丈夫!」
「あは、よかったあ。じゃ、これならどぉ?」
そう言ってイルミナは、一番奥から木のハンガーにかけられたワンピースを取り出した。
それはまるでおとぎ話のお姫さまみたいな、
ふんわりした色合いのリボンつきのワンピース。
少し目立つけど……このくらいなら、むしろ気持ちが明るくなりそう。
「素敵! こういうのすごく好みよ。すごいわ」
「よかった。実はこれ僕のデザインなんだ。 僕が作ったの」
「すごいじゃない!」
私の賞賛にイルミナは満足したのか、左右に首を振ってにこにこした。
「ふふ。似合ってるし、それ、マリアにあげる。大切にしてねぇ。」
「いいの? ありがとう……!」
「うん。今夜はこのままデートしようよ。まだ僕に恋してる設定は有効でしょ?」
イルミナは私に手を伸ばした。私もその手を取ろうとして……腕にチクリと痛みが走った。
「う……あいたた」
「ごめん……まだマチ針が残ってたみたいだねえ。ふふふ……」
「もう! イルミナったら」
イルミナはいたずらっぽく笑った。だけど、今のイルミナは不思議と怖くはなかった。
私もだんだん、ここでの暮らしに慣れてきたのかも?
そして私たち二人は一緒に、夜の街に出かけたのでした。
なぜなら今日の夜はまだ、始まったばかりだから! |
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