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夕暮れ時の街。行き交う人はみんな手に手に袋を提げて、楽しげだ。
買い物帰りは、荷物は重いけれど心は軽い。
洒落た雑貨やファッションブランドが並ぶこのあたりでは、
ショッピングを楽しむお客さんが多かった。
私も可愛い手袋を探そうと寄り道をしていた。
このあたりは素敵なお店も多い。
最近急に寒くなってきたし、今まで使い込んできた毛糸の手袋にも穴が目立ってきた。
聖バルビナ学園の制服にも似合うような、新しい手袋が欲しいと思っていた矢先だった。
(うーん、なかなかこれっていう、可愛いのがないわね)
私がいくつかのお店の前を通り過ぎて、裏通りを抜ける途中。
私は私はとくに大きな包みを持った少年をみつけた。
風変わりで目立つ格好だし、何より人間離れしたあの雰囲気を、私が見逃すはずもなかった。
(まさか……)
予想どおり、彼はジョーカーと名乗る少年だ。
そして買いものの箱や紙袋を両手いっぱいに持っている。
確かに、一人じゃ大変そうだけど……
(あんなにたくさん、何を買ったのかしら。ふらふらしてるけど)
いつもは、私たち聖バルビナの生徒にちょっかいを出してくる嫌なヤツだけど、
思わず手伝ってあげたくなった。
だけど、のこのこ“大丈夫?“なんて出ていったら、負けな気もした。
何せジョーカーは小悪党の上に女の子が大好きなナンパ師だし、
話しかけたら最後、ずっとつきまとわれそうだった。
(そうよ。関わったら、ロクなことにならないわ。だけど……)
「あ、マリアじゃない! ねえ、何してるの?」
「…………別に」
案の定、見つかってしまった。一旦こうなったらジョーカーはしつこい。
私は、あきらめて、困っている人を放っておいてはいけないと、手伝いを申し出ることにした。
「ジョーカー。アンタ荷物、大変なんでしょ。仕方ないわね。ほら、貸しなさい!!」
「え、いいって。女の子に荷物持ちさせるのは、ボクのポリシーじゃないし。
ほら、いいって、マリア!」
「いいから。ふらふらして。歩いてる人にぶつかったら迷惑でしょ?」
「はは……そんなに言うなら、御願いしよっかな」
……我ながらお人好しだと思うけど、ジョーカーは笑っていた。
そして私はジョーカーから紙袋を受けとった。
「じゃ、マリアはこれとこれを御願い」
「もう、重いわね。中身は何?」
「うん、靴とかバッグとか、冬ものいろいろ。帽子もあるよ」
「かさばるものばかりじゃない。それに一度にこんなに買うことないでしょ」
「大丈夫。いつもこんなもんだし。それにこれは、お客さんに届けるものだから」
「お客さん?」
「そうだよ。ボクは遊んでるわけじゃないんだ。今はお仕事中!」
ジョーカーは、楽しげに言いながら、夕暮れの通りをどんどん歩いて行く。
「ふうん。でも意外ね。アンタ、こういう、普通の仕事もしてたなんて。」
「まあね。僕は頼まれて、コーディネイトをしているだけだけど」
「ふうん。でも、女の子の服もあるわよ? お客さんって、女の子が多いの?」
「まあね。女の子のものを選ぶの好きだからさ。マリアにも、何か選んであげようか? 」
「今はいいわ。私のものは自分で選ぶし」
「でも、意外と自分じゃわからないこともあるよ。
ま、今度何かあったら、僕に頼んでよ。僕、将来は自分で服のブランドを持ちたいんだ。
お店は、このあたりに構えたいな。」
「ふふ。いいわね、それ。頑張りなさいよ」
私は、ふと不思議な気分になった。
いつもは悪さをしてまわっているジョーカーにも普通の夢があるのだと知って、
思わず応援している自分に戸惑いを覚えた。
「ありがとう!
マリアのお陰で一番のお得意様のところに間に合いそうだよ! ……そうだ、これ」
ジョーカーは紙袋の中から小さな袋を取り出し、私に差し出す。
「これ、持ってて。寒くなってきたし、今日のお礼。あけてみて?」
パシャ、と小さな音をたてるパープルの薄紙をゆっくりめくると、
中からシックなダークグレーのツイードの手袋が顔を出した。
「わ、お洒落なのね。でもこういうの、私普段は使わないんだけど」
「じゃ、これを機会に。きっと似合うから、してみて?」
「ええ」
試しに手にはめてみると、私のサイズにぴったりで、ふんわりとあったかい。
「似合う……かしら?」
思わず嬉しくて顔を上げると、もうそこに、ジョーカーは居なかった。
早く、学園に帰ろう……私は手袋をはめた両手を、ぎゅ、と握った。
手袋からはかすかに、ジョーカーみたいな匂いがした。 |
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