「マリア!?」
「O salutaris Hostia Quae coeli pandis ostium.Bella premunt hostilia; Da robur, fer auxilium.. (嗚呼、救霊の生贄、天つ御国の門を開き給う御者よ、われらの敵は戦いをいどむが故に、われらに力と助けを与え給え。)」

 私は、ラテン語の祈りのことばを唱える。

「待て、マリア!!勝手な行動は許さないぞ……!」

 宗像さんが私を止める声が、後ろから聞こえる。


「よう、マリア……久しぶりに、マトモな悪魔が喰らえるんだろうな?」

「ええ。日本に来てからは、おそらく一番大きな獲物よ」

 そんなことはおかまいなしに、召還された悪魔ウリエルは、私の後ろで獲物の悪魔を品定めしている。

「依頼人の家で、悪魔を呼ぶなんて正気じゃない……マリア、オレが交代する。そいつを封じろ!!」
 宗像さんが、私の後ろで叫んでいるけど、もう私にはそれはできなかった。

 ウリエルは召還したが最後、目の前の悪魔を喰らい尽くすまで、封印することはできないからだ。

 ウリエルの目が、少女の中に潜む悪魔を見つめる。

「ふん、無駄だ。コイツはもう10年以上、彼女の中で眠っていた悪魔だ。そんなに簡単には、罪深き特等席を手放さない。」

 ウリエルは、ベッドに固定された少女にとりついた悪魔を威しはじめた。

「……おい、貴様。今からこのオレが相手だ。」

「あううアウアうああああ……!!」
 ベッドの上の虚ろな目つきの少女が、こちらを見る。

「悪魔よ、そこから出てきなさい。そこは、お前の居場所じゃない」

「……帰レ。死ニタクナケレバ、ナ……!」
 ベッドの少女が、突然ケモノの声そのものになる。

「このオンナはオレのモノダ……出テいかナイト、貴様ラを皆、殺シテやル……内臓をヒキズリ出シテナ!」

 少女の中に潜む悪魔は、私たちを威嚇するが、表には出てこない。

 そこに居れば、安全だとでもいうふうに、私たちを挑発するだけだ。




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