第3話「雨に濡れた猫のように」
「邪魔するなよ。この女は、悪魔であるオレと共存している……無理に引き離せば……死ぬぞ」
マリアを抑えつけ、悪魔ウリエルは笑った。
「貴様が、マリアにとり憑いた悪魔か。早速、お目にかかれるとはな……!」
宗像さんはサーベルを構え、ウリエルとの距離をつめる。
「おい人間。オレの獲物に手を出すなよ?」
シュ……
ウリエルのツメが宗像に伸びたかと思うと……その爪は、窓の近くの黒い影を引き裂く。
(何だ、今のは……!?)
「ウギアアア…………!!」
下級悪魔の断末魔。黒い影は、粘りのある霧のようにはじけた。まるで腐った果実を踏みつけたような、あっけない幕引き。
ウリエルのツメに残った、黒いコールタールのように粘りつく悪魔の残影……それを、一滴のこらず舌にからめて舐め取り、ごくり、と喉を鳴らして飲み込む。
「ふん。この程度では、腹の足しにもならない」
ウリエルの姿に戦慄し、宗像さんは注意深く後ろへ一歩引く。
「これは……一体……」
声をつまらせた宗像さんに、私は答える。
「私を狙って来た下級悪魔ですよ。それでも祓い損ねれば、周囲の人や場所に、穢れとして染み付く……だから、私にはうかつに近づかないほうが身のためです。私は悪魔を呼び寄せますから」
「しかし……!!」
「他の人には危険はありません。彼らが直接襲うのは私だけです。でも、私にはウリエルが居ますから」
「やれやれ……厄介な女が来たものだな」
宗像さんは、腰のベルトにサーベルを納めた。
納得のいかない顔をしているが、面倒見はいい人なのだろう。
「マリア、部屋で身の回りを整理しておくといい。晩餐は8時から、一階の食堂だ。遅れるな。」
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