第2話「極東のマリア」
「マリア、突然だが……明日、日本へ向かってくれ。」
「え……!?」
私は驚いて、神父さまを大きな目で見た。
ここはイタリアはバチカン。そして私は法王庁のシスター。
「あの、私、何かマズいこと……しました?」
「いいや、君はいつも、よくやっているよ。」
今まで孤児の私にも、実の父親のようによくしてくれていた……はずのウルタド神父は、酷な言葉を笑顔で飾った。
「あまり外の世界を知らない君にとっても、世界が広がっていいかと思うのだが。」
……そっと渡される飛行機のチケット。
「え……これは!?」
「マリア。日本には今、上級のエクソシストが不足している。なのに、悪魔による事件は急増している。マリア、君ならきっと彼らを導けるだろう。」
「そんな、無理ですっ!私は悪魔憑きだし、日本人ってなんかとっつきにくそうだし、とてもじゃないけど……」
私がばたばたとしていると、神父さまは笑って肩を叩いた。
「大丈夫。日本にも、君と同い年くらいのエクソシストがいるんだ。なんせ、紹介先は中学校だからね。」
……………………………………………………
「うう、来てしまった……」
途方に暮れて降り立つ日本は、バチカンよりちょっと肌寒い。夕暮れの街の中、私はウルタド神父に渡された地図を頼りに、なんとか目的の駅に降りた。
東京都、広尾。ローマ市街に比べると新しく、こざっぱりとした街だ。だけど……
「心細いなあ。たった一人で、こんな地球の裏側まで来ちゃって……」
正確には、一人っきりじゃない。祖母の代から憑いている、“悪魔ウリエル“も一緒に海を越えてやってきた。
それがまた、たまらなく不安の種なんだけど……
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