人のいなくなりはじめた公園で地図をもう一度確認しようと、持っていた手帳を取り出したとき……

「御免!!」

「きゃあああ!?」
 パシャ……!!

 いきなり背後から冷たい水をかけられ、私はおどろいて飛び上がった。

 振り向くと、そこにはむすっとした不機嫌な顔の大男が、立っていた。

「な、なにするんですかあああーーーーっ!!」
 バチン!!
 反射的に私は平手で、男の頬を打った。

「…………………」
 サムライ風の男は、むすっとして、ほぼノーリアクションだ。

「おい、女……何ともないのか。痛いとか、熱いとか。」

 大男は神妙な顔でこっちを見ている。手には、栓をあけたばかりの小瓶を持っていた。

「痛いわけないでしょう、失礼ね!!」

 男が手にしていたのは十字のついた小瓶。中身はつまり、聖水だ。

 それを女の子にかけるなんてのは……これ以上、失礼なことはない。

「酷い!日本人は礼儀正しいって聞いてたのに、アテにならないわね!」

「そうか……」
 ため息をついて、サムライ風の大男は少し膝を折る。

「自分の勘違いだったようだ。非礼は詫びる」

 私はハンカチを取り出して、服にかかった聖水を拭いた。

「余計なお世話です。私、用事がありますからこの辺で。」
 私はスカートをととのえると、すたすたと歩き始めた。

「しかし、あの女から邪悪な気配を感じる……」

……………………………………


「うう、痛い……」
 私は、首根っこを押さえた。

 さっき聖水をかけられたところだ。



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