「平気ですよ!まだまだ倍は持てます!」

「いえ、重いでしょう。一度荷物を車に積みましょう。」

「いえいえ、全然平気です!良かったら、神父さまの荷物も、お持ちしましょうか?」

「…………なるほど。貴女は華奢な割にタフなんですね。」
 神父は、硬めの顔を少し崩して笑った。

  いつもはまっすぐな眼鏡も、汗ばんでズレてしまっている。

「すみません。実は私のほうが疲れてしまって……少し、休ませてください。」
「あ、すみません!」

 ロージ神父はエリートだし、いつもは遠い存在だけど、少し身近に感じられるのは嬉しい。

 神父は眼鏡を外して、絹のハンカチで額を叩く。荷物を降ろして、広場のベンチに腰かけると、ローマ市街の空を見上げた。新緑を散らした街並みがまぶしい。

 ナイアデイの噴水広場で、ロージ神父は私にジェラートを買ってくれた。春先だからまだ少し早いけれど、私には今年初めて食べるジェラートだ。

「ありがとうございます……神父さまは食べないんですか?」

「ええ、僕は……甘いものは苦手でね。それに厳密には牛乳は動物性で……ああ、すみません。固苦しいですか?」
 ロージ神父は苦笑いする。

「いえ、美味しいです!」
 
「いつもすみませんね。ベテラン神父たちはこういう雑用を、何故か僕に押し付けるんですよ。」

「あはは……きっと、愛のシゴキですよ。私もベテランシスターにしごかれます。」
「なるほど。」

 カバンにハンカチを戻そうとして、ロージ神父はぎょっとした表情になった。
「あれ……カバンの中が真っ黒……まさか!?」

 神父はあわてて、カバンの中を調べる。
「まずい……万年筆のインクが漏れてる!?」

「神父さま、噴水のお水を借りて、ゆずぎましょう。」

「いえしかし、公共の環境を汚すわけにはいきません。でも、おかしい……この万年筆も10年来、壊れたことはなかったのに、どうして……」




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