「マリア、今日は悪かったな…………そうだ……」
 ポケットを探ると、小さな紙箱が出てきた。

「これ、食べるか」

「あの……何ですか、これ?」

「“二人静“だ。日本の菓子で……教会の信徒さんがよく、持ってきてくれる。せっかくこんな、遠くの国まで来てくれたってのに、悪いことしたな。」

「わ、ありがとうございます!初めてです、日本のお菓子!」

 やっと笑顔のきっかけができた私が、それを受け取ろうとすると……
「…………」
 宗像さんが、少し手を後ろに下げた。
 紙箱の中がカサコソする。

「あ、すみません。何か、悪いことしました?」
「悪いが、女には触れないようにしている」

 宗像さんは私に少し距離をとって、さらに眉間に皺を寄せた。

 この人、本当に女が嫌いなのか……それとも私が嫌いなのか?

「マリア……オレはこんな調子だが、気を悪くするな。今日は、ゆっくり休むといい。」
 宗像さんは困ったようにつぶやくと、そのまま廊下を急いで引き返していった。

「おもしろい人……でも、日本の学園にもついて、ウルタド神父の紹介状も渡したし……やっとこれで一安心かな?」

 学園内の寮は妙に静かで、時折遠くから聞こえる車のクラクションが、余計に学内の静けさを引き立てる。

 今日の夕方、街で宗像さんに聖水をかけられた場所が、まだヒリヒリと痛む。普通の傷なら時間がたてばすぐうすらぐのに。

 困ったことにこの手の痛みはなかなか消えない。
 ロザリオを外して、首の痛みに消毒薬をつける。

 ……こんなものがきくのかどうか、わからないけど。

 よく見るとスカートの裾もほつれている。

 
これもさっき、宗像さんが出てきたときのせいだろう。

「荷物の中に確か、針と糸もあったわよね……」
 すぐにそのほころびを直そうと、数針を縫った、その時。

「このくらい、すぐに直せるんだから………きゃ!?

 私は針で指先をつついてしまった。

 傷口からぷくりと染み出した血が床に落ちる。



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