第1話「異端のエクソシスト」
「マリア、お前の命はあと1年。どんなに泣こうがわめこうが、苦痛に満ち、孤独なその死を逃れることはできない……絶対に……」
闇から声が聞こえる。冷酷で、世界を我が物として大仰に振舞う……それは、悪魔の声だった。
「覚悟しているわ。天国には行けないこの身のことは。だから今は、せめて眠らせて。」
「つかの間の安息に耽るがいい。しかし忘れるな……1年後、オレはお前の命を奪う。確実に……」
……………………………………………………
チチチ、チチチ……
さわやかな鳥の声が、朝の訪れと、私にまだ寿命が残っていることを思い出させる。
「夢、だったの……?」
ここはイタリアのバチカン。
主に教えを請う者たちの総本山。
私の名はメアリィ・クロウ。
洗礼名はマリア。そう、聖母マリアさまと同じ、あのマリア。
朝も昼も夜も共同生活を送る私たちシスターの生活。
両親の居ない私は、理由あって法王庁の神父に引き取られた。
ここでは、私は洗礼名の方で……マリアと呼ばれていた。
ずらりと並べられたベッドは1部屋に14台。
ベッドは粗末だけど、シーツはいつも清潔に洗い上げてある。
眠い目をこすってベッド脇の時計を見ると、朝の5時きっかりだ。
「マリア、おはよう。今日はよく眠れた?」
隣のベッドのおませなクレアが話しかけてくる。
「ううん、あんまり……」
「それってやっぱり、彼のせい?」
「……うーん。どうかな……」
おませなクレアは、人好きのする大きな瞳をぱちくりさせると、思春期特有の愛らしい女の子の顔になる。
……この寄宿舎で怖がらずに私に話しかけてくるのは彼女くらいのものだ。
さて、私たちシスターは朝は5時に起床すると、共同の食事が始まる。もちろん、厳格なこの修道院では、男女の食事も、部屋もきっちり分かれている。
鬼のシスターピエリナがやってきた。青白く神経質な顔に、痩せた体でカツカツと、女子寮の中を監督するのが彼女の役目だ。
「いいですか。貴方がたは主と神父以外の男性と、お話してはなりません。私たちは生涯を、神の愛のみに捧げて生きるのですからね。」
「始まったわ。皆、恋するお年頃なのに、そんなの無理よね!」
おませなクレアは、私にひそひそ声でささやく。
■Next (2/ 9)