「来タ、カ……」

 宗像さんが顔を上げ、声のするほうを見た。

 
ギシ、ギシとわずかにきしむ廊下を進むにつれて、少し気温が下がって、肌寒くなる。

 緊張した面持ちのメンバーが、部屋に近づく。心なしか、水鏡さんの顔色が悪い気がする。


 そう思った瞬間、私の脚に鈍い痛みが走った。

「…………!」


 水鏡さんが私の脚を踏んでしまったようだ。ちょっと痛いけど、今はそれどころじゃない。

「すみません、マリア。大丈夫ですか?」
「いえ、平気ですよ。」

 私は水鏡さんの心の平和を乱さないように明るく応える。

「おい水鏡、本当に大丈夫なんだろうな……?」

 宗像さんが、私の気にしていたことを訊いてくれた。

 心配そうに水鏡さんの表情を覗き込む。

「ええ、準備も完全にしていますし。心配は無用ですよ。」
「油断するなよ。強いぞ。」
「わかっていますよ。」

 水鏡さんは、コクリとうなずいて、息を呑む。今日は水鏡さんがメインで悪魔祓いを行う日だ。
 成功も失敗も、すべて水鏡さんにかかっている。


 その時。

 ガタガタガタ……!!2階の廊下が激しく揺れる。

「皆、下がって!」

 水鏡さんは、一振りで聖水を撒いた。

バタン、と目の前の扉が勢いよく開き……部屋の中から、鋭利な影の先端が水鏡さんめがけて飛来した。

「危ない!!」
 宗像さんのサーベルの一振りが、それらを全て床にたたき落とす。

 先端の鋭利な影の正体はただのペンや定規だ。

 水鏡さんは姿勢を低くして、突き当たりの部屋に飛び込む。
 と同時に、祈りを捧げた。


「高潔なる天使・木星のザカリエル、戦いに降り立ちてわれらを護り、悪魔の凶悪なる謀計に勝たしめ給え!」

 目の前がまばゆく焼き切れたように光り輝く。白い翼を持つ、天使ザカリエルが呼び出されたのだ。



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